受賞履歴
2008.11.21
原子力機構システム計算科学センターが国際会議SC07・SC08大規模解析技術コンクールにおいて
二年連続で優秀賞を受賞
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡﨑俊雄)システム計算科学センター高度計算機技術開発室の鈴木喜雄研究副主幹他6名は、11月20日(日本時間11月21日)に米国オースティンで開催中の世界最大の高性能計算機科学国際会議SC08(*)の大規模解析技術コンクールにおいて、大規模数値シミュレーションの結果に対する新しい解析技術について、昨年度に続き二年連続で優秀賞を受賞しました。
これまでの数値シミュレーションの結果に対する解析では、結果のデータを可視化した図から気になるデータ(特徴データ)を見つけだして詳細に解析することで結果の正しさを判断していました。これは、例えば医師がレントゲン写真から病巣を見つけ出して患者の健康状態を判断するのと同じような方法です。しかし、最先端の大規模数値シミュレーションにおいて出力される結果のデータは、レントゲン写真1万枚~1000万枚に相当する情報量を含んでおり、この中から特徴データを抽出して解析を行うには多大な時間と労力を要します。また、抽出すべき特徴データを見逃してしまって結果を誤認する危険もありました。
システム計算科学センターでは、パターン認識技術(*)や知識処理技術(*)といった最先端の情報処理技術と可視化処理技術を統合することで、自動的に特徴データの抽出を行い研究者に提供するシステムを提案し、昨年度開催された国際会議SC07において優秀賞を受賞しています。今年度はさらに機能の拡張を進め、一つの問題に対して様々な計算手法を併用し、得られた複数の結果を比較分析し統合的に解析することで、結果の信頼度を上げることを可能にしました。
「今回優秀賞を受賞した新しい解析技術により、離れた場所にある大規模計算機を自在に組み合わせて計算を行い、複数の大型計算機で別々のシミュレーションの結果を解析できるようにすることで、従来は膨大な計算能力を必要としていた複数のシミュレーションの解析を効率的に行うことが可能となりました。
SC08の大規模解析技術コンクールにおいては、大洗研究開発センターの高温工学試験研究炉(HTTR: High Temperature Engineering Test Reactor)(*)の熱による構造物の変形の解析(熱変位解析(*))に新しい解析技術を適用した事例を紹介し、その高い実用性を示した点が評価されました。 原子力分野の数値シミュレーションは大規模なものが多く、結果の解析にはこれまで多大な労力を要してきました。しかし、今回の受賞の対象となった新しい解析技術により、従来以上に効率的かつ高信頼な結果を得ることが可能となり、原子力の安全・安心の更なる向上へ貢献できることが期待されます。
【用語解説】
国際会議SC08:
SCは米国で開催される高性能計算機、ネットワーク、ストレージ、解析をテーマとした計算機科学に関する国際会議。今年で20回目を数え、世界の主要なベンダーや公的研究機関がブースを構えて大々的な展示を行うとともに、併設会場にて学術論文の発表が行われる。世界各国から数千人の研究者、技術者が集まり、この分野で最も権威のある会議である。
パターン認識技術:
パターン認識技術とは、文字認識等に利用される技術で、対象となるデータの分布の特徴が与えられた候補のどれとマッチするかを比較し、同定する技術。例えば、手書き数字のパターン認識であれば、手で書かれた数字の特徴からが0から9までのどの数字に対応するかを決定する。
知識処理技術:
パターン認識を実現するためには、対象となるデータの分布の特徴を計算機に認識させる必要がある。分布の特徴に関する記述を知識と呼び、知識に基づき行う処理を知識処理という。
高温工学試験研究炉(HTTR: High Temperature Engineering Test Reactor):
日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターに建設された我が国初の高温ガス炉。2004年に世界初となる原子炉出口冷却材温度950℃を達成した。高温ガス炉は、その固有の安全性と高い出口温度を活かした水素製造等の多目的利用、高効率発電等の特徴から、次世代の原子炉の一つとして世界的に注目されている。
熱変位解析:
熱による構造物の変形(熱変位)に関する解析。熱変位は、ひびや破断を引き起こし得るため、本解析は原子炉の健全性評価にとって重要な課題の一つである。