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研究・業務

量子コンピューティングが可能な特異な量子相(ハルデーン相)を原子気体を用いて実現する方法を発見


システム計算科学センター・シミュレーション技術開発室は、光学格子中のフェルミ原子気体において、 ハルデーン相(*)という特異な量子相(1次元整数スピン格子において実現する相)を簡単に実現する方法を発見しました。 原子気体は、レーザー等を用いると容易に制御できることから、発見したハルデーン相を制御し、量子コンピューティング(*) が実現可能になると考えられます。本研究成果は米国物理学会の論文誌Physical Review Letters(2012年12月7日発刊)上で発表されました。

  光学格子とは、対向レーザー光により作られる周期的な原子ポテンシャルのこと(図1参照)を指し、その光学格子中に閉じ込められた原子気体は、 理想的な結晶中の電子集団と同等の系と見なすことができます。この同等性により、光学格子中のフェルミ原子気体を用いることで、例えば高温超伝導(*) などに代表される、理論的理解が極めて困難な低次元の強相関量子現象(*)の様々な知見を得ることが出来ると考えられ、現在、盛んに実験及び理論研究が行われています。 今回、着目したハルデーン相は、そのような低次元強相関量子現象として現れる代表的量子相の一つですが、スピンギャップ(*)、エッジ状態(図2参照)(*) 等の特異な状態が知られ、最近では、そのエッジ状態を用いた量子コンピューティングの実現などが提案されてきたことから、 原子気体のようなほぼ完全にクリーンで且つ制御性の良い系においてハルデーン相を実現することは、極めて重要な意味を持っています。
  今回、私たちは、一次元格子中のp-軌道(図1参照)を占有したフェルミ原子気体に注目し、上記ハルデーン相の実現可能性を調べました。 その結果、p-軌道の2つの自由度(図1(b)に示されているようにpx及びpy軌道)を利用することにより、 フェルミ原子が本来持つスピン1/2の2倍となるスピン1の格子上でハルデーン相が、容易に実現できることを理論的に明らかにしました。 また、実際に密度行列繰り込み群法を用いた大規模並列計算によって、ハルデ-ン相の直接の証左であるスピンギャップ、エッジ状態の存在の確認にも成功しました (図2参照)。その上、更に粒子間相互作用を大きくした領域では、ハルデーン相と強磁性相が共存して現れることも、数値シミュレーションにより新たに分かり、 ハルデーン相と隣り合って出現した強磁性相は、頑強なエッジ状態として振る舞うことから量子コンピューティングへの応用が大いに期待できることを見出しています。


図1:光学格子ポテンシャルとp-軌道フェルミ原子気体

図2:一次元格子中のp-軌道フェルミ原子気体におけるエッジ状態

用語解説

ハルデ-ン相:1次元整数スピン格子において実現する相であり、スピンギャップ、エッジ状態等を持ちます。

量子コンピューティング:従来の計算機では、0か1の何れかの値をとるユニットを1ビットとし、多数のビットを制御することでコンピューティングを実現していますが、 量子計算機では、量子力学に基づき、0と1の値を任意の割合で重ね合わせて保持する単位を1量子ビットとすることで並列計算が可能となり 、n量子ビットあれば2のn乗の状態を同時に計算できます。従って、もし、この量子ビットを多数用意し、制御可能となれば、 従来の計算機では実現不可能な超大規模な並列計算が可能となります。

高温超伝導:超伝導現象を説明するために確立されたBCS理論と呼ばれる理論を用いると、超伝導転移温度の高さには、ある限界が予測されるため、 その限界を超えることはないと信じられてきました。しかし、その限界を超える超伝導体が発見されて以来、そのような超伝導を一般に高温超伝導と呼んでいます。 1987年に発見された銅酸化物超伝導体の転移温度は、正に、その予想された限界を遥かに超えるものであり、その理論的な説明については、未だ確立していません。

強相関量子現象:量子力学に従い、且つ、強く相互作用する多数の粒子集団で起こる現象。固体を一つの格子とみなすと、その上で電子は量子力学に従い、動き回ることができます。 しかし、格子点上で2つの電子が出会うと強いクーロン反発力が働き、その効果を考慮すると、モット絶縁体という、 電子が全く動きまわることができなくなる状態に転移することが知られています。このモット絶縁体転移の周辺で起こり得る物理現象を広く強相関量子現象と呼んでいます。尚、 モット絶縁体転移近傍では、高温超伝導のような豊かで且つ奇妙な物理現象が出現することから、その現象の理解は、現代固体物理学の最大の課題でもあります。

スピンギャップ:スピンの自由度に対しギャップが開いた状態を指します。低次元強相関物質などでスピンギャップをもつ物質が多く知られており、 高温超伝導の発現機構にも関係していると考えられています。

エッジ状態:ある特定の物質では、系に境界があるときのみに特徴的な局在状態が生じることがあります。そのような境界の状態をエッジ状態と呼びますが、 1次元整数スピン格子においては局在状態として自由な1/2スピン粒子が現れることが知られています。近年このようなエッジ状態を利用した量子計算手法が提案されています。

密度行列繰り込み群法:多体の量子力学を厳密に扱うことは一般には不可能ですが、密度行列繰り込み群法を用いることにより一次元量子系をほぼ厳密に扱うことが出来ます。 また大規模並列計算を用いることにより準2次元的な量子系を扱うことも可能となります。